昼休みに福沢さんを見つけ、残すところはあと二人。出来ることなら、今日か明日にはその二人を見つけてしまいたい。なぜなら、今日は木曜日で明日からは二連休なのだ。私が探している岩下先輩と荒井先輩は部活動に入っていない。ということは、休みの日に好き好んで学校にはやってこないだろう。
下手をすれば二日も暇をしていなければならないという事実に絶望しつつも放課後の校内を散策する。すると、前方に見覚えのある人物がいるのに気づいた。それは新堂先輩と日野、そして岩下先輩だった。これなら何気なく話しかけられるかもしれない。岩下先輩と一対一で話を出来そうにないと思っていた私は、嬉々とした三人に近づいた。調査を進められ、かつ新堂先輩と話せる。日野はいらないが、そこは妥協しよう。
そう思って彼らに近づくと、意外なことに新堂先輩が声をかけてきた。


「よ、

「お久しぶりです、新堂先輩と日野先輩」

「お前まだ坂上のこと諦めてないんだな」


私はにこやかに挨拶をしたのに、日野は最初から喧嘩腰でそう言ってきた。日野を相手にする気なんてさらさらないので軽くかわすことにする。


「すごい情報網ですね。発信元は倉田さんあたりですか?」

「あら、坂上君は私のものなのよ?」

「何いってるんだ岩下。坂上は俺のだ」


まさか岩下先輩も坂上君のことが好きだったとは知らず、いささか驚いた。もちろんそれを表に出すほど私は未熟者ではない。どちらかといえば、岩下先輩は日野よりも相手にしたくはない人間だ。だから、日野と岩下先輩が言い争いを始めてくれてほっとする。私はさっさと戦線離脱するための宣言をすることにした。


「では、新堂先輩は私のものということで」

「どうしてそうなるんだ」


新堂先輩が呆れたような顔をして私の額を小突いた。痛く感じられなかったということは、本気で嫌がっているわけではないのだろう。これは頑張ればフラグを立てられるかもしれないと、頬が緩むのが分かった。それを目ざとく発見した岩下先輩が、少し不機嫌そうに眉間に皺を寄せて口を開いた。


「貴女は坂上君のことが好きなんじゃなかったの?」

「正直、顔が良ければ誰でもいいです」

「最低ね。それに男性は顔だけではないと思うけど」

「最初から全力で遊びだから、見た目がよければいいんですよ。飽きたら捨てる。これ鉄則です」


別に取り繕う必要もないので、緩んだ顔のまま正直に答えた。新堂先輩と日野は驚いたように、ちょっとだけ目を見開いた。
何年も生きていると色恋沙汰には疎くなる。そういう行為が面倒になるのだ。むしろ、他の人の修羅場のほうが楽しめるぐらいだ。それを目的に、色んなカップルを破滅へと導く幽霊もいるぐらいだ。
だから私の「好き」は玩具としての「好き」と同じなのだ。ペットの犬が好きという人は、異性として犬が好きな訳ではない。要はそれを見て、愛でることによって退屈を紛らわす。私の好きもそれと同じことだ。


「遊びで坂上を誘っただと……!」

「坂上君よりも質は劣りますけど、別に日野先輩だって構いませんよ。楽しめるのであれば」

「……そうだ、。伝えたいことがあった」

「何ですか?」

「来週の月曜。放課後、新聞部室に来てくれ」

「フルボッコフラグですか?」

「フルボッコ?」

「リンチって意味です。私先輩達に殺されちゃうのかな? きゃー、怖いー」


黄色い声を上げて、体を大げさに震わせて見せる。演技だと割り切っているが寒いな。三人もそう思ったのか凍りついたかのように硬直する。一番初めに解けたのは岩下先輩だった。彼女はとても作り物めいた素敵な笑みを浮かべ、しかしその綺麗に描かれている口元の弧を片手で隠した。もったいない。


「中々面白い子ね。気に入ったわ」

「お褒めに預かり光栄です。私の中の岩下先輩の評価は結構高いほうですよ」


真夜中の学校で岩下先輩に出会ったら、相当怖いだろう。つまり、それだけ我が社にとっても有益な人材となりえるのだ。
私と岩下先輩が聞いていて不安になるような笑い声をあげているのを、呆然として見ている新堂先輩と日野が何故だか滑稽に思えて私は更に笑ってしまった。


「月曜日、楽しみにしています」

「ええ、私も楽しみにしているわ」

「……度胸あるな」


新堂先輩がぽつりを呟いた。そして、理解出来ないといった風に首を左右に振る。そもそも私は幽霊なのだから、生きた人間である彼が理解出来なくても仕方ないだろう。
ちょっとだけ悪戯心を出して、彼らに私の正体を理解させるヒントを出してみることにした。


「人間如きに負けはしませんから」


万が一死んだとしても、それは多分風間望に止めを刺されてだろう。しかし、食えない彼のことだ。人間が出せる力で私に殺されない程度に襲い掛かってくるぐらいだろう。それか、襲ってすらこないか。
一方私は調査を遂行するためにそう簡単に死ねはしないので、人間の限界を超えた能力を行使することを許されている。後処理は霊界のほうで何とかしてくれるだろう。
再び黙り込んだ三人に軽く会釈すると、私はその場を後にした。これで、私が荒井先輩を探す必要も、調査が足りなかった人物に再び会う必要もなくなった。実際に彼らの部活動に参加出来るのならば問題はない。