パソコン画面を眺めて、ため息を吐く。
画面上に映し出されているのは、私の最近のお気に入りのホラーゲームであるSIRENのプレイ動画だ。
実況動画もいいかもしれないが、これの場合はプレイ動画のほうが見やすくて好きだ。さすが、安心のマイリス率。
私は、ゲームは専ら見る専門だ。
実際に操作するなど、ヘタレで臆病者の私には無理というもの。
だから、こうして某大型動画サイトにアップされている動画を見ているというわけだ。
私は、画面前に置いているチューハイの缶を手にすると、ぐびりとそれを飲む。
つまみはない。あえていうなら、今見ている動画が肴といったところだろうか。
チューハイの甘い味に酔いしれながら、缶を更に傾ける。
しかし、それ以上私を現実逃避させてくれる液体が出てくることはなかった。
私は缶を持って、ふらふらと立ち上がるとキッチンに向かう。
シンクの上には既に何本ものチューハイの缶が置かれていて、そこに手に持っている缶を追加する。それから、後ろにある冷蔵庫の扉を開け、新しい酒を取り出した。
ぐらぐらと、視界が歪む。
はたして、これは酔いのせいなのか。それとも、心情的なものなのだろうか。
私自身のことなのに、何も分からない。分かりたくもない。分からなくて、いい。
今日ぐらいは現実から目をそらそう。趣味の世界に没頭しよう。
足元の何かにつまずいて、盛大に転んだ。缶は私の手から離れて、転がっていってしまう。
――何もかも、私のもとから去ってしまう。
不意にネガティブな思考が浮かび上がってくる。
そんなことを考えたくないから、アルコールをあんなにも摂取したというのに、これではまったく意味がない。
それでも、一度始まったマイナス思考の波を止めることができなかった。
――私なんて、ただのバケモノ。
やめよう、こんなことを考えるのはよそう。
――実の両親だって私を捨てた。義理の両親だって、私を気味悪がっていた。
さぁ、缶を持って立ち上がって、パソコンの前に座って動画を見よう。
今は丁度、私の好きな撲殺天使こと宮田先生のターンじゃないか。
――私は、ここにいなくてもいい存在。いや、むしろ、いてはいけない存在。
「どうあがいても、絶望……か」
ふと、このSIRENというゲームのキャッチコピーが口からこぼれ出た。
彼らに比べたら、私の不幸など大したことはないのだろう。
でも、それでも、思わずにはいられなかった。
そして、思ったことはそのまま口をついて出た。
「同じ絶望ならまだSIRENの世界のほうがいい……。こんな世界なんていらないから、だから、誰か私をSIRENの世界に連れて行ってよ…………」
視界が徐々に暗くなっていき、意識もどんどん朦朧としていく。
私はこの現実を忘れたくて、誘われるように眠りの世界に旅立つことにした。